進化は「選ばれる」だけではない──自然淘汰と自己組織化から読み解くスポーツ上達論

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生命の営みは「選ばれる」だけでは説明できない

ダーウィンの『種の起源』以来、生物進化は「自然淘汰(natural selection)」の概念で語られてきました。
適応的な特徴を持つ個体が生き残り、子孫を残す──この過程が長い時間をかけて、生命の多様性を形作ってきたとされます。

しかし、生命の営みはそれだけでは語り尽くせません。たとえば、細胞の構造や生化学的反応ネットワーク、発生過程における形態の出現などは、「誰かに選ばれたから」ではなく、内部の構造と相互作用から自然に生まれたものです。

これがもう一つの視点、自己組織化(self-organization)です。

細胞の進化と自己組織化

単細胞から多細胞へ。ミトコンドリアや葉緑体の共生説(エンドシンビオント理論)などは、「選ばれた」よりも「繋がった」結果として生まれました。
つまり、異なる細胞が「自律的に適応し合い」「相互作用によって新たな構造が生まれた」ことが進化の鍵でした。

このように、生命の進化には、

  • 自然淘汰による競争・排除の論理
  • 自己組織化による協調・創発の論理
    が共に存在します。

社会・経済も生き物のように進化する

人間の社会や経済も、生物と同じように複雑系の性質を持ちます。
「優秀な企業が市場で生き残る」という自然淘汰的な見方はありますが、それだけでは説明できない事象も多く見られます。

例えば、イノベーションや文化の変遷、SNSにおけるバズ現象などは「選ばれた」というより、
多くの人や情報の自律的なやりとり(相互作用)によって自然に形成された構造です。

まさに社会は、動的に変化する自己組織化されたシステムなのです。

スポーツの上達は「淘汰」ではない

ここでスポーツの話に戻りましょう。従来の指導は「できる・できない」で評価され、できない選手は排除されがちでした。これは自然淘汰の論理です。

しかし、実際には、選手はそれぞれ異なる身体的特性や学習スタイルを持ち、それが環境(練習設計やチーム文化)との相互作用の中で成長していきます。

これはまさに「自己組織化」の視点です。たとえば、

  • 同じトレーニングでも選手によって学習のタイミングが異なる
  • 周囲の選手との関係性や環境の変化によって新たなスキルが「創発」される
    といった現象は、上から「教え込む」よりも、環境と関係性の中で「育つ」ことを示しています。

自己組織化を支えるコーチングとは?

では、自己組織化を促進するためにはどんな指導が必要でしょうか?
答えは「制約主導アプローチ(CLA: Constraints-Led Approach)」や「非線形教育学(Nonlinear Pedagogy)」にあります。

  • 環境、課題、個人の特性という3つの制約を調整することで、選手の動きや判断が自己組織化されるようにデザインする
  • 「正しいフォーム」を押し付けるのではなく、選手自身が問題を解決しながら最適解を見つけるプロセスを重視する

こうしたアプローチこそが、スポーツにおける「学びの進化」を生む鍵なのです。

育つとは、組織されること

生命の起源から、細胞の共進化、社会の形成、スポーツの学習に至るまで。
本質的な進化は、「競争による淘汰」ではなく、相互作用と変化からの自己組織化によって進んできました。

スポーツにおいても、選ばれることよりも、自ら環境との関係を築きながら進化する力を育むことが重要です。

上達とは、「教わること」ではなく、「自ら組織されること」
それこそが、本当の「進化」なのかもしれません。

指導者コミュニティBRAINではこのような理論を深掘りながら参加者の皆様と学びを深めています。
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