【GK理論①】コンテクストの中でトレーニングを行う重要性

1.プレーの4局面とそのつながり

ゴール型の競技にはプレーの4局面が存在している。代表的な例として、サッカーにおける「攻撃局面」「守備移行局面」「守備局面」「攻撃移行局面」が挙げられる。これはハンドボールにおいても同じことが言える。昨今のトレーニングモデルを見てみると、その多くが「攻撃局面」「守備局面」のみに焦点が当てられている。しかし、点数を取ること・失点を防ぐことだけが球技の要素ではない。例えば、ある選手が守備をする中でボールを奪ったとする。ボールを奪った選手は攻撃をすぐに開始できるかもしれないが、他の選手はそれまで守備をしていたため攻撃の準備をするのは時間がかかってしまう。つまりその瞬間は「攻撃をしている選手」と「守備をしている選手」が同チーム内に混在する「カオス」な状況であると言える。そのカオスな状況から秩序を作り出し、全員で守備、或いは攻撃に向かう準備をすることはコーチが練習を考える上で重要な視点になる。つまり「攻撃移行局面」や「守備移行局面」に対する練習を行い、スムーズに移行できる能力を養っていくことが必要であると言える。

2.移行局面の問題点

しかし、練習の多くが「攻撃局面」や「守備局面」に焦点を当てているだけで移行局面の練習が行われていない訳ではない。速攻練習やリスタート、クイックスタート練習などが移行局面の練習として挙げられる。ただ、「ゲームのつながり」を考えたときにこれらの練習には大きな問題点が存在する。それは「同じような状況」から練習を始めることが多いという点だ。複雑系のスポーツでは同じ状況が2度と起きない。同じような状況があったとしても、プレーをする選手の能力・技術・メンタル・疲れ、さらには、天候やコートの状況など様々な要因により若干の誤差が生まれてくる。そこを知覚させ自己組織化を促すのがエコロジカルアプローチの基本的な考え方である。このような運動学習の観点から「同じような状況」で練習を始めさせても選手が試合の中で活きる能力を養えるとは言い難い。

3.コンテクストの中で学習を促す

 プレーの4局面の中でスポーツを行うこと、つまり、コンテクストの中で運動を学習することが重要である。では試合形式の練習だけを行えばいいのかと言われるとそうではない。学習者にとって試合形式の練習はあまりにも「ノイズ」が多すぎるためだ。そこでコーチは「制約」を用いて、学習させたい能力が多く発生するような練習をデザインする必要がある。コンテクストの中で制約を用いる代表的な練習モデルとして挙げられるのがスモールサイドゲームだ。基本的にはそのような考え方をベースにトレーニングを行っていくことが求められるが、競技を始めたばかりの選手、或いは自己組織化が進んでいない選手に対してはシリアル練習やランダム練習、時にはブロック練習などが必要になってくるだろう。競技者の実態に合わせ、制約を調整し、できる限りコンテクストの中で学習を促すことが複雑系スポーツのコーチには求められる。

制約を用いたトレーニングの例

Flores-Rodríguez, J., & Ramírez-Macías, G. (2021). Non-linear Pedagogy in Handball: the Influence of Drill Constraints . Apunts. Educación Física y Deportes, 143, 73-83. https://doi.org/10.5672/apunts.2014-0983.es.(2021/1).143.08

4.ゴールキーパーの局面

 ハンドボールは基本的に全員で攻め、全員で守るのが基本だが、ゴールキーパーは攻撃には参加しない。ゴールキーパーは守備移行局面の終盤に指示を出し、DFが秩序を作り出すことを促す。続く守備局面ではDFの最終ラインとしてゴールに立ちはだかり、攻撃移行局面ではパスや指示などで攻撃をアシストする。この3つの局面に関わっており、特に守備局面では重要な役割を担うことになる。しかし、ハンドボールのルール上、6mライン内はゴールキーパー以外侵入ができない。そのため、ゴールキーパーは守備局面の中でも他のコートプレイヤーとは全く違う局面の中で動いていると考えている。以下は私が作図したゴールキーパー局面の図である。

5.ゴールキーパーのコンテクスト

 「ゴールキーパーはシュートを取ればいい」そんな考えが現在の日本には定着している。シュートを止めるためにその前の局面でどんな準備をするかということが見落とされており、それに対するアプローチがされていないのが現状である。準備をし、相手の戦術を読み、セービング動作に繋げ、攻撃をアシストする。このゴールキーパー特有の流れを理解した上でトレーニングを行うべきだ。私自身も現在ゴールキーパーコーチをしており、日々様々なことを試行錯誤している。今後も「コンテクストの中で」という視点は常に持ち続け、試合の中で使えるスキルを学習してもらうことを目指していきたい。

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